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ブラームス:交響曲第2番ニ長調

ブラームスの「田園交響曲」とも呼ばれる第2番。21年の歳月を費やした第1番と打って変わって4か月ほどで書き上げられており、曲想も、作曲を進めたオーストリアの避暑地ヴェルター湖畔の雰囲気を反映してか、陽光に包まれたような明るさがあります。この曲をオーボエ奏者はどんなことを考えながら演奏しているのでしょうか? 東京交響楽団オーボエ奏者の最上峰行さんにお話を伺いました。

楽器本来の「華やかさ」を抑えて、低音を担う2番オーボエ
1番奏者のソロの陰には、2番奏者のサポートあり!

オーボエ奏者 最上峰行

G11

 どの楽器も1番奏者は花形ですが、その陰でオーケストラ全体に心を配りながら演奏し、オーケストラのサウンド作りで重要な役割を担っているのが2番奏者です。2番オーボエは出しゃばらず、でも適度に存在感を保って1番オーボエを支えます。アプローチ次第で、1番オーボエが映えるときもあれば、壊してしまうことも。その責任は重大です。そんな2番オーボエのお話をしましょう。
 ブラームスの交響曲は4曲すべて名曲ですが、2番オーボエにとって一番厳しい作品は第2番かもしれません。オーボエは音域が下がるにつれ音が大きくなるのですが、この曲の2番オーボエは音域が低いのです。特に神経を使うのが第2楽章です。たとえば、冒頭の2番オーボエが下降する音型は、簡単かと思われるでしょうが、1番の陰になるように吹くのが難しい。その後チェロのメロディに対して木管楽器が和音をつけますが、ここは、自分の音が和音のどの部分に当たるのかを理解し、それにふさわしい音色とバランスで吹かねばならず、奏者の技術とセンス、和声感が露呈してしまう恐ろしい箇所です。そのあと1番&2番オーボエがオクターヴのユニゾンでメロディを演奏しますが、そもそもオーボエはユニゾンが揃いづらい楽器である上に、この音型だと1番オーボエは高くなりやすく、2番オーボエは低くなりやすい。不思議なもので、1番オーボエを演奏しているときは音程の許容範囲が広く感じるのですが、2番オーボエを演奏するときの音程は針の穴を通すようで、そのズレは1番オーボエよりも目立ってしまうという、なかなか辛いパートなのです。
 第3楽章も2番オーボエにとって難関です。1番オーボエのソロの途中で寄り添うように入りますが、それまでクラリネットが作ってきた弱く柔らかい響きを変えないよう吹かねばなりません。ここで作曲当時のオーボエの最低音「シ」の音が出てきますから、それを控えめに吹く難しさもあります。
 1音で涙を誘うような、ブラームスの美しく温かい、しかも深い響きを作るには、2番オーボエの音もとても大事です。そのためのリードを作るのですが、低音のピアニッシモを出しやすくするためリードを薄くしてしまうと、それは僕の理想とするブラームスの音ではなくなってしまう。どこまでリードを薄くするか、その線引きが難しいです。
 このように、2番オーボエはかなりストイックな役割を担いますが、うまくいったときは本当に幸せな気分になります。その成功は誰にも気づかれませんが(苦笑)、でもそれが2番奏者のあるべき姿ではないかと思いますよ。
 例にあげた箇所は、難しいだけでなくとても美しい場面でもあります。ブラームスの和声進行は、ひとつひとつ大切に粘って演奏したくなりますが、第2楽章の出だしがまさにそう。4拍目から始まるチェロのメロディは、聞き手の涙を誘うほど感動させます。また、第1楽章冒頭の低弦の「レドレ」はたった3音ですが、このインパクトは圧倒的です。第3楽章冒頭、1番オーボエのメロディの、のどかで軽やかな表現も見事ですね。
 僕は、ブラームスの音楽を聴くと、どうしてもクララ・シューマンを連想してしまいます。ブラームスの交響曲は、重く深い音楽のなかに突然、夢のような音楽が出てきます。第3楽章がまさにそうで、これは叶わぬ夢や希望、つまりブラームスのクララへの思いを描いている気がしてなりません。
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 3月の指揮者は、ベルリン・フィルで長年首席オーボエ奏者を務めたシェレンベルガー氏です。今とても充実している東京交響楽団のオーボエ・セクションにシェレンベルガー氏がどんなアプローチを求めるか、とても楽しみです。皆さんもどうぞご期待ください。
(友の会会報誌SPIRAL Vol.47より転載/取材:榊原律子)

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団「名曲全集第115回」
2016. 3.13 (日) 14:00開演

◆ 出演
指揮:ハンスイェルク・シェレンベルガー
ヴァイオリン:郷古 廉
◆ 曲目
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 作品73

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