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東響楽団員・ヴィオラ座談会「エレクトラはヴィオラに注目!?」

2023.5.1

《エレクトラ》の管弦楽は、ヴァイオリン・ヴィオラが3群、チェロは2群に分けられた特別な編成で、第1ヴィオラにはヴァイオリンとの持ち替え指示のある珍しい作品。今回、この第1ヴィオラに臨む東響ヴィオラパートの武生直子さん、多井千洋さん、小西応興さん、鈴木まり奈さんが一堂に会し、公演に臨む意気込みをヴィオラ・ジョークも交えつつ語っていただきました。

聴き手・まとめ:林 昌英(ぶらあぼONLINEより転載)

左より: 小西応興さん、 武生直子さん、 鈴木まり奈さん、 多井千洋さん

名演を生み出す、ノット監督ならではのリハーサル

──ノットとのホールオペラ、昨年の《サロメ》は超名演でした。ノットさんとのリハーサルはどんな雰囲気でしたか?

小西ホールオペラで《サロメ》はやったことないから、ピットでやるのとは全く違いました。

武生途切れがないから、始まってから場面ごとにどういう風に作るかということは、もちろん気を遣いました。ノットさんがどれだけの集中力と中身で来るかというのも大きいので。でもノットさんのリハは短いよね、いつも。

鈴木2日目までにまとめて、3日目は通して終わり。細かいところを返すかなと思ったら、返さないで終わって…

一同(笑)

鈴木みんな「え…」みたいな感じで。

──あんな複雑なオペラでリハがわずか3日というのも驚きですが、しかも3日目はほとんど通しで終わりだったんですね。

武生たぶん今回も(笑)

小西やっぱりノット音楽監督は楽団員をすごく信頼してくれているから、あまりガチガチにせずに本番を楽しんで、という喜びを欲してリハをやっているようです。

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

武生だから本番始まるとき、あまり疲れてないんですよね。

鈴木ああ、そうかも!

武生集中力は残されている。たぶん監督の頭の中に全てが入っているので、こちらも頭に入れておかないと動けない。《サロメ》の時も(リハで)先に進んだと思ったら急に戻ったりして、え、そこ?みたいな感じになる。だけど、最終的に全部弾くと、いつの間にかすごいストーリーができあがっていて。練習の仕方がすごく上手なんですね。

鈴木最後にパズルが全部はまるような。

武生はまるんだよね。いつもすごいなと思います。ノットさんはご自身の頭の中にあるものを言葉でみんなに伝えるから、リハでは頭も使います。

──(3月までコンサートマスターを務めた)水谷晃さんも、ノットさんとの共演などで超多忙なとき、やはり「頭を休めないと」という言い方をされていました。

多井本当にそう思います。ノット監督の公演は、身体は全然疲れないんです。音楽が自然で共感できるので、身体への負荷はほとんど感じないんですが、頭が本当に疲れている。

武生糖分摂取量が増えちゃう(笑)

鈴木夜はパタッと寝るという感じになります。スイッチオフみたいな。

──出てくる音の質や迫力もひときわ特別なものを客席でも感じられます。

武生集中力を本番に取っておいてもらえるから、その場でいろいろやってもエネルギーが上手に使える、その作用が大きいかもしれません。

鈴木みんながまとまるから、音量的なものもそうですが、総量として倍音が出ているとか。

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

武生和声のこと、調性のこと、響きを考えています。でも、基本はすごく譜面通りだなと思っています。楽譜を深く読むから出てくるものを、みんなと共有して作り上げていく。

──多井さんは東響に入ったときからノット時代でしたが、その雰囲気はどう感じましたか?

多井魅力ある監督とは伺っていたんですが、それが理解できるようになったのは何度か経験してからです。東響は演奏会が多いので他の指揮者との違いを少しずつ感じてきて。「エロイカ」のとき、自分も思い入れがある曲で、どう振られるかをよく観察できたのですが、譜面に書いてないことまで解像度が高く、かつ自然に作り込まれて、緻密さの重要性と、クラシックの魅力を改めて感じさせられました。

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

──個人的にも、ノット監督指揮のシンフォニーでいえば、ラフマニノフ第2番と「エロイカ」は感動の超名演でした。「クラシックを演奏する・聴く魅力」が凝縮していたんですね。

エレクトラの濃厚な世界観

武生R.シュトラウスというとシンフォニックで表現の幅がすごいから、最初はワーッと思ったりするんだけど、スコアを見ると意外と古典的だなといつも思うんです。きちんと分析して行けば、必ず音楽が繋がっているし、構成がはっきりしている。スコアを見ると面白いんです、色彩もあるし。そして、言葉と音楽が密接に絡んでいる、その密度が《サロメ》より《エレクトラ》の方が強いのかなと。スコアを把握してから舞台に立ちたいと思います。
ストーリーについては、ギリシャ神話のドロドロっていうのはヨーロッパでは定番なのかな。

鈴木野蛮性というか、すごく残酷だし、知らないだけかもしれませんが、日本の神話や民話にはあまり出てくることのなさそうな感覚のように思います。

──最後は復讐が成就した喜びの踊りで主役が死にますし。

武生いろいろ読んでみると、エレクトラが虐待を受けていたというのがわかり、この最後は虐待で弱っているけど、復讐で生命が燃えていたというのもあるのかなと。それに、エレクトラの父親アガメムノンが殺されたという設定から始まるけど、その前のストーリーを知ったら、自分の子を生贄にしたりして、父親も悪いじゃんと(笑)

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

多井世の中のこととリンクしますよね。見えていることだけが全てじゃないっていう。

武生ストーリー上で誰が悪いというよりは、長いお話の中からある一部分を切り取っただけ。原田マハさんの『サロメ』を読んでから原作を読んだら、サロメがかわいそうになり、狂ってないかもって。でもそういうことって人間誰でもあるかもなって。

多井ちょっとした精神上の変化で、普通の人も狂いますもんね。

第1ヴィオラから第4ヴァイオリン・パートへ

──こういう曲って他にあります?

一同《エレクトラ》だけでは。

武生オリジナルなんですよね。ノットさんはそれにこだわったと言ってましたね。

──3回持ち替えがありますね。1回目は意味がわからないくらい短く、1~2分しかない。これはもう持ち替えの練習なんじゃないかと思っているんですが。

一同(笑)

武生すでに分奏してみたんですが、たしかに持ち替えで焦っちゃって。最初はそうでもないけど、次第に難しくなって(笑)。

──持ち替え1回目は時間的余裕がありますが、3回目はわずか4小節しかありませんね。

武生1回持ち替えたら、高い音よりもG線とC線がうまく切り替わらなくて。

小西(笑)

多井普段僕らってG線が真ん中なので(※ヴィオラの弦は下からCGDA)、ヴァイオリンの譜面でG線出てきたときに、角度的に無意識にD線弾いちゃう。

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

一同(笑)

多井ヴァイオリンのG線(※ヴァイオリンの弦は下からGDAE)に体がいかない。分奏のとき、みんなで止まってしまってむちゃくちゃ笑ってしまいました。体が本当にいかないなんて、予想もしなかったことで、すごい発見でした(笑)。

──ヴァイオリン持ち替えの2回目と3回目が重要な場面です。2回目はオレストが登場してエレクトラがそれに気づいて陶酔する、ある意味では愛の情景みたいな場。3回目は復讐が成就して歓喜している場面です。

武生持ち替えはストーリーの後半の方で、女性が歌うところが多いのかな。女声の高い音域で、和声的にも精神的にも充実させたいからなのかなと。

──指定の編成(※)だとちょっと中低弦が強くてゴツゴツした響きになる。それがこのオペラの陰惨な雰囲気にふさわしい。ガツンとした音とか、ヴィオラの高音の独特の音色とか。それが、第1ヴィオラ6人が第4ヴァイオリンに入ると、ヴァイオリン30人・ヴィオラ12人、要するに通常のオケの16型の人数バランスになる。暗い場面ではない、ある意味陶酔しているところとかを、この通常のバランスにしているのかなと思うんです。

※曲の人数指定は、ヴァイオリンが8人ずつの24人、ヴィオラが6人ずつの18人。

鈴木それはおいしいですね!ヴィオラ的な重い役割もあれば、ハッピーな場面もある。それができるのはいいですね。

武生そんな機会ないからね。

鈴木持ち替えについて、初めてきいた時には、ヴィオラジョーク的な、「ヴァイオリンを下手に弾いてください」ということなのかなと(笑)

小西ああ、ピッチがない!みたいな(笑)

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

武生ヴィオラはヴァイオリンと比べてヴィブラートの幅が広くなるので、私たちがE線弾くと耳がおかしくなって何の音かわからなくなるんですよね。

鈴木逆にヴァイオリンの低い音の方はいい音が出ますよね。だから中音域の豊かな部分を増やしたかったのかなと。

──ヴィオラジョークということでいえば、今回皆さんは“第1”ヴィオラを演奏されるじゃないですか。なぜ持ち替えると“第4”ヴァイオリンなのかと。

一同(爆笑)

ヴィオリストは普段からヴァイオリンを弾く?

──今回はこういう珍しい機会ですが、みなさんは普段ヴァイオリンを弾く機会がありますか?

小西レッスンのときにちょっと弾くくらいかな。

武生私もそう。舞台で弾くのは本当に久しぶりです。

鈴木仕事では弾いてなくて、こどもに教えるときくらいです。

多井大学の学園祭でふざけてヴァイオリン弾いて大恥をかいてしまい、二度と人前では弾いちゃだめだと自分に固く誓ったんですけど、15年後にこんなことになるとは。

鈴木でも、ある意味トラウマから解放される時期みたいな感じも。私もヴァイオリン弾いちゃいけないかなという思いもありましたが、いまなら弾いていいんだって言われたみたいな。

3人なるほど。

武生実は私、ファーストヴァイオリンで東響のエキストラに来てました。大学の時。

多井そーなの?!知らなかったです!!(笑)

武生ヴィオラのオーディションで「あれ、前にヴァイオリンで出てたよね?」と言われて、「東響とご縁があるみたいで、ヴィオラで入らせていただきます」と答えました(笑)

3人知らなかったなあ

ヴィオラが主役!?

武生まさか楽器を持ち替えてる?と気づかれないくらい、バタバタしないで、スッとヴァイオリン弾いてみたい(笑)

多井絶対周りからガン見されると思います。逆の立場なら、持ち替えめっちゃ見ちゃうだろうから(笑)

鈴木みんなに言われますよね。ヴァイオリンの人にワーッと。

武生ヴァイオリンが舞台に置いてあるんですよね。なんだろうと思われそう。

小西みんな弦を切るのかなみたいな(笑)

──練習の時には持ち替えただけでオーっとなりそうですね(笑)

一同ありえる、ありえる(笑)

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

鈴木普段目立てない人たちだから、そういう意味でもちょっとスポット当ててあげるか、みたいな感じでしょうか。

多井スポット浴びたいと思っていないんですけどね(笑)

──お話をきいていても、普段ないある種のイベントみたいに楽しんでいるように感じられます。

一同楽しみです!

──あと、曲の最後、ヴァイオリンのまま終わっちゃうんですよね。ヴィオラに戻してもらえない。

一同そう、そうなんです!

武生私たち、エレクトラなのかなと。恍惚と、ヴィオラという箱から解放されて、高い音域に羽ばたいた!

鈴木カーテンコールもヴァイオリンですね。

多井僕は2台持つつもりです。高めに掲げて。いつもの楽器紹介みたいな感じになる(笑)

──最後ヴァイオリンのままで、切ない気持ちなのかなと思ったのですが。

武生全然。もはや主役なんじゃないかと。エレクトラよ!と(笑)

多井なおさら、うまく弾けなかったら切ないですね(笑)

小西そうだね、はまらなかったら顔上げられない、うつむいたまま(笑)

武生でもヴィオラの人っておおらかな気がする。いつもみんなとしゃべっていても弾いていても。だから割とポジティブです、うまくいかなくても。

東響楽団員・ヴィオラ座談会の様子

小西実際に持ち替えてどんな効果があるのか、自分一人で練習しているとわかりませんが、リハーサルをやってみて、ああこういうことかと納得するのかなと期待しているところです。

武生《サロメ》からの《エレクトラ》はどうなるかなと楽しみです。

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