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ノットが散りばめた作曲家を繋ぐキーワードから聴こえてくるものとはーこれぞプログラミングの妙!(10月「名曲全集」)

演奏会を「常に心躍るものにしたい」と語るジョナサン・ノット氏は、その言葉通り、よく知られた楽曲であっても、その取り合わせの妙によって新たな価値に気づかせてくれるプログラムをたくさん披露してきました。10月22日に行われる「名曲全集」も、一言でいえば「変奏・ヴァリエイション」の楽曲を集めたプログラム。ですが、その取り合わせには、ノット氏らしい鋭い洞察が垣間見られます。今回は東京交響楽団事務室長の辻敏さんにその奥深いプログラミングについて紐解いていただきました。

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第130回
2017年 10月22日 (日) 14:00開演

【出演】
指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団音楽監督)
オルガン:石丸由佳
ピアノ:児玉 桃
【曲目】
リスト:バッハの名による前奏曲とフーガ S260/R381(オルガン独奏)
シェーンベルク:管弦楽のための変奏曲 作品31
ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 イ短調 作品43
ラヴェル:ボレロ

J.S.バッハの偉大さ B-A-C-H


1曲目のリストはオルガンの独奏曲。これをオーケストラの定期演奏会に持ってくること自体が大胆な発想。しかも2曲目のシェーンベルクにも共通して『B-A-C-H』音型(B♭、A、C、Bの音型)が使われています。「偉大なるバッハへの敬愛の念を表すためですが、特にシェーンベルクらが使う十二音技法では、バッハの作曲技法が顕著に現われます。バッハが確立したフーガをはじめとした多くの作曲技法は、遠く時を隔てた21世紀の音楽にも確実に引き継がれています。」(ノット氏談) リストとシェーンベルクがバッハでリンクする訳です。

無調を目指したリスト


ロマン派に分類されるリストですが、実は1885年に「無調のバガテル」を作曲し、無調宣言をしています。しかしながらシェーンベルクの十二音技法とは違い、移調の限られた旋法が用いられるに留まりました。それでも、今回の4人の作曲家の中では唯一1800年代のみに生きた作曲家であり、時代を考えると大変興味深いものです。こんなところにも、リストとシェーンベルクを繋ぐキーワードが存在します。

余談ですが、リストは1831年にパガニーニの演奏に触れる機会があったようで、大変な感銘を受けたとのことです。

1928年


シェーンベルクの「管弦楽のための変奏曲」とラヴェルの「ボレロ」は、共に1928年に作曲されました。かたや十二音技法を駆使した大変複雑な曲、かたや終始同じリズムに乗せて同じメロディを繰り返す大変シンプルな曲。ノット氏曰く「この両極に位置する様な2曲が、同じ年に作曲されたこと自体に、驚きを隠せません。1928年前後はクラシック音楽にとって、新旧が交錯する、正に激動の時代であったと言えます」。2曲の対比が明確に聞き取れます。

伝統を重んじたラフマニノフ


リスト、ラヴェルそしてシェーンベルクは、それぞれ違いはあるものの、伝統と革新・実験の狭間で作曲をしていました。それに対して「ラフマニノフは、ラヴェルやシェーンベルクとほぼ同じ時代を生きましたが、全ての作品が調性の枠組みの中で書かれ、伝統的なロマン派の語法からは一切外れることの無い作曲家でした。」(ノット氏談) そのメロディックな作品は一部の評論家から酷評されることもありましたが、多くの聴衆から支持されました。

実験としてのボレロ


ラヴェルは、調性を固持し、伝統的音楽様式を守った上で、スペイン民謡、ジャズなどの要素を取り込んだ、オーケストレーションの天才でした。しかし、このボレロに関してはラヴェル自身「特別に限定された方向での実験的な作品である。」と言及しています。「非常にシンプルな曲ながら、大胆な発想による曲」(ノット氏談)で、ラヴェルにとっては「実験」の一つでもありチャレンジだった訳です。「ボレロを変奏と呼んで良いのか?勿論疑問はありますが、このプログラムの中ではその実験的な面がより強調されて聞こえるのではないか」とはノット氏の談。


伝統か革新か?無調音楽か調性音楽か?共通性はあるのか?etc…1928年にタイムスリップした気持ちで是非耳を傾けてみてください。正解は一人一人が探してください。きっとこれまでと違ったボレロが響いてくるはずです。

(文・東京交響楽団 事務室長 辻敏)

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