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ミューザ川崎シンフォニーホール
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スペシャル・オーケストラ・シリーズ2025

スペシャル・オーケストラ・シリーズ

パリ管、コンセルトヘボウ管、ベルリン・フィル――欧州の最強楽団勢ぞろい

文:池田卓夫(音楽ジャーナリスト)

ミューザ川崎シンフォニーホールが主催するスペシャル・オーケストラ・シリーズ、2025年はパリ管弦楽団(フランス)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団(オランダ・アムステルダム)、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ドイツ)と、ヨーロッパ最強の顔ぶれがそろった。しかもパリとアムステルダムは最注目の若手クラウス・マケラ(1996~)が一手に指揮を引き受け、2023年の日本ツアーで首席指揮者・芸術監督キリル・ペトレンコ(1972~)と衝撃的な名演奏を繰り広げたベルリンもミューザ川崎に戻ってくる。共催公演の、ホールのフランチャイズ・オーケストラ東京交響楽団の音楽監督ジョナサン・ノット(1962~)が監督を兼務するスイス・ロマンド管弦楽団(ジュネーヴ)も来演するから、一段と華やかな競演&饗宴を期待できそうだ。

マケラの指揮でパリ管×コンセルトヘボウ管聴き比べ

いまや世界最大の指揮者「産出国」となったフィンランド出身のマケラは2025年、20代最後の年を迎える。最初はチェロ奏者として頭角を現しながらヘルシンキのシベリウス・アカデミーで指揮者教育の世界的大家ヨルマ・パヌラの指導を受け、10代でキャリアをスタートさせた。2018年に東京都交響楽団へ客演するため初来日した時はまだ22歳だったが、ソロ・コンサートマスターの矢部達哉は「リハーサルが始まり、ほんの数分で素晴らしい可能性を秘めた指揮者だと直感しました」と振り返る。以後は破竹の勢いで2020年にノルウェーのオスロ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者兼アーティスティック・アドヴァイザー、2021年にパリ管音楽監督へと抜擢された。さらにコンセルトヘボウ管首席指揮者、シカゴ交響楽団音楽監督(ともに2027年から)に内定、ヨーロッパとアメリカの2大陸にわたる「マケラの時代」が幕を開けつつある。

アーティスト写真
指揮:クラウス・マケラ ©Marco Borggreve

パリ管弦楽団 フランスの交響曲プログラムでミューザ初登場!

パリ管とは2022年10月、オスロ・フィルとは2023年10月に日本ツアーを成功させたが、2025年は6月にパリ管、11月にコンセルトヘボウ管と1年に2度の日本ツアーを率いる。前回のパリ管はメインにストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」か「春の祭典」を置き、ドビュッシーの交響詩「海」やラヴェルの「ボレロ」「ピアノ協奏曲(両手)」(アリス紗良・オット独奏)を配したメニューで、交響曲はなかった。2025年のミューザ川崎ではベートーヴェンの交響曲に強い影響を受け、フランスに交響楽の歴史を切り拓いたベルリオーズの「幻想交響曲」(1830)と、その爛熟期にパイプオルガンの華やかな響きとともに現れたサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付」(1886)の傑作2曲に挑む。パリ管の色彩豊かなサウンド、定番の名曲から新たな輝きを引き出すマケラの棒さばきに期待が募る。

アーティスト写真
Orchestre de Paris – Philharmonie ©William Beaucardet

ロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団 楽団の伝統 シュトラウスとマーラー

コンセルトヘボウ管では50年間に渡って率いたオランダの巨匠ウィレム・メンゲルベルク(1871~1951)が多くの作曲家から信頼され、R.シュトラウスは交響詩「英雄の生涯」、マーラーは第5番と8番の交響曲と後世の偉大な名曲をメンゲルベルクに献呈した。2024年、マケラとの来日でも、R.シュトラウスの交響詩から「ドン・ファン」が聴ける。

アーティスト写真
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ©SimonVanBoxtel

メインはマーラーの「交響曲第5番」。献呈されたメンゲルベルク以降もコンセルトヘボウ管ではベルナルト・ハイティンク、リッカルド・シャイー、マリス・ヤンソンスらマーラーを得意とする首席指揮者が続き、マケラもその伝統を継承する構えだ。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 「巨大な室内楽」のオーケストラ 2023年の衝撃再び!

一方、ベルリン・フィルは1957年(昭和32年)以来定期的に来演してきたし、ペトレンコもバイエルン州立歌劇場音楽総監督(GMD)時代の2017年に日本ツアーを成功させた。両者の力を疑う者はいなかったにもかかわらず、2023年のベルリン・フィル来日は大きな衝撃を与えた。ブラームスの交響曲第4番、R.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」などメインは「帝王カラヤン」時代から日本でも頻繁に演奏してきた定番だが、ペトレンコは楽員全員と徹底した議論とリハーサルを重ね「完全なコンセンサス(合意)が得られた状態」で本番に臨み「巨大な室内楽」を現出させた。このインクルーシヴ(包括的)な姿勢は客席だけでなくホールの外の日本社会にも及び、全国から選抜されたアマチュア音楽家とベルリン・フィル楽員による特別オーケストラ「Be Phil オーケストラ」を組織して、ペトレンコ自身がリハーサルと本番の一部を指揮した。2025年ツアーの曲目は現時点で未定だが、「音楽のまち・かわさき」に特別なインパクトを与えることは確実だ。

オーケストラ写真
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 ©Stephan Rabold

スイス・ロマンド管弦楽団 ノット監督の「もう1つのパートナー」がミューザにやってくる!

2014年、東響第3代音楽監督に就いたノットの「もう1つのパートナー」、2017年から音楽監督を務めるスイス・ロマンド管も夏(7月)のミューザ川崎を訪れる。3か国語(フランス語、ドイツ語、イタリア語)を公用語とするスイスのフランス文化圏を代表する名門で、ジュネーヴ歌劇場のオーケストラを兼ねる。川崎ではスイス系フランス人作曲家オネゲルの交響曲第2番「ラグビー」、2025年が没後50年に当たるショスタコーヴィチの「チェロ協奏曲第1番」(独奏=上野通明)、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」と、ノットが最も得意とする近代名曲が並ぶ。指揮者とオーケストラの組み合わせ次第で音楽がどう表情を変えるのか、聴きものである。

アーティスト写真
指揮:ジョナサン・ノット ©Niels Ackermann

アーティスト写真
チェロ:上野通明 ©Seiji Okumiya

オーケストラ写真
スイス・ロマンド管弦楽団 ©Niels Ackermann

(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」vol.84より)

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