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ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲

アルトフルートのソロを聴けば、
ダフニスとクロエの熱愛ぶりがわかる!?

首席フルート奏者 甲藤さち

G11

 「ダフニスとクロエ」はオーケストラ全ての楽器奏者の腕前が問われると言ってもよい作品ですが、特にフルートセクションには、有名な1番のソロをはじめ、ピッコロ、2番フルート、アルトフルートにも重要なソロがあります。とても緻密な動きをしますし、セクション内での受け渡しも難しい。「今度またダフニス演るね」と聞いたら、セクション全員の背筋が伸びる感じです(笑)。
 なんといっても第2組曲の「パントマイム」。婚礼の宴で、新郎ダフニスが“笛を吹くパン”、新婦クロエが“その調べに乗って踊るシリンクス”を演じる場面です。1番フルートの大ソロが終わると、ピッコロを交えながらフルート1番と2番がひとつのラインを紡ぎ出します。ふたりを祝福する来客のやんやの波が最高潮に達したあと、ふらふらしたクロエがフルート1&2番が掛け合うオクターヴのパッセージからピッコロの上行型に押し寄せられ、今度はあたかも1本の楽器のように下降するピッコロ→フルート1番→フルート2番→アルトフルートの音階でダフニスの腕の中にはらりと倒れ込みます。いや、ここはやはりセクションの面目を賭けても綺麗に繋がないと(笑)。
 そして、クロエがダフニスの腕に倒れ込んだ後がいよいよアルトフルートの聴かせどころなのです。抱擁のテーマを吹くのですが、この旋律は「愛の主題」ともいわれています。「非常に表情豊かに」との指示があり、これをどれだけロマンティックに吹けるかで2人の熱愛の度合いが決まると言えるかもしれません。
 アルトフルートはフルートより完全4度低い音域を持つ楽器です。たった4度ですが、普通のフルートよりも柔らかくて、温かく包み込むような音色を持っています。1854年頃に開発された聴き慣れない音色の楽器を、いきなり大切な場面に使うとはさすがオーケストレーションの魔術師ラヴェル! ちなみにその後はストラヴィンスキーの「春の祭典」やホルストの「惑星(海王星)」でも使われています。
 そもそもフルートという楽器は低音を鳴らすのが難しいといわれていますが、昔のアルトフルートは性能の問題でも、なかなかベストな状態を維持するのが大変でした。なので、この「抱擁」の場面のソロは残念ながら以前は事故多発地帯だったようです。奏者も、また、普段と違うサイズの楽器でソロを吹くという緊張感の中、最低音域でのスケールから跳躍まで滑らかに繋ぎ、朗々と歌わなくてならないのですから。以前、ある楽器店で某オーケストラのフルート奏者がアルトフルートを購入する場面に遭遇しました。「明日からダフニスのリハなんだけど、今ある楽器だと、あのレ♯からソ♯が繋がらないんだよ」と言って、とにかくその2つの音が繋がる楽器を探し出して買っていきました……。
 「ダフニスとクロエ」の淡い空気感、神々の時代の神秘的な雰囲気を醸し出すフルートセクション、そしてアルトフルートの活躍にぜひご注目ください。(SPIRAL vol.34 より転載/取材:榊原律子)

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集 第102回
2014. 11.1 (土) 14:00開演
【出演】
指揮:高関 健
ピアノ:マーティン・ヘルムヘン
【曲目】
モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番
ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲
公演詳細⇒http://www.kawasaki-sym-hall.jp/calendar/detail.php?id=1324

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