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【公演迫る!】ノット&東京交響楽団が奏でる極上のモーツァルト 「コジ・ファン・トゥッテ」リハーサル・レポート(文・榊原律子)

2016.12.08

From_Muza

みなさまおまちかね、ジョナサン・ノット音楽監督&東京交響楽団によるモーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」演奏会形式のリハーサルが、モーツァルトの命日12月5日にスタートしました。2日目の12月6日には、いよいよオーケストラと歌手の初合わせ。この日の様子をお伝えします。

オペラの演奏会形式の上演スタイルは、歌手が楽譜を見ながら直立不動で歌うものから、舞台装置があり演技しながら歌うものまで、さまざまありますが、今回の「コジ・ファン・トゥッテ」は、舞台セットはないものの、歌手は全曲暗譜で、ステージ前方で演技しながら歌います(ステージの前には指揮を映すモニターを設置)。ステージ中央にオーケストラが並び、その真ん中には、今回の注目のひとつ、ハンマーフリューゲルがあります。今回ノット監督は、指揮するだけでなく、レチタティーヴォではハンマーフリューゲルを演奏します。立って座って大忙しのノット監督ですが、ハンマーフリューゲルの伴奏での歌手との対話は、指揮とはまた異なり、ドラマに見事な緩急をつけていました。

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そして、驚きは、弦楽器の編成です。第1・第2ヴァイオリンが各6人、ヴィオラ4人、チェロ3人、コントラバス2人という「モーツァルト・マチネ」でも例のないほどの小編成で、そこから生まれる音が実に温か。東響のモーツァルト・サウンドは、作品を愛しむようなノット監督の柔らかな指揮によって一層磨きがかかり、潤いのある優しい響きがミューザに満ちていました

オーケストラへのノット監督の指示はとても細やかで、「もう少しグラツィオーソ(優雅)で」「この音はメゾフォルテで」「この音は短すぎずに」など、要所にニュアンスをつけていきます。たとえば、フィオルディリージとドラベッラの最初の二重唱はとても甘美な音楽ですが、ノット監督はオーケストラに「もう少しエキサイトして」と指示。2人が恋人を思ってうっとりする歌ですが、夢見心地になりすぎないようにということでしょうか、少しワクワクした表情を注ぎ込むことで、音に“恋の情熱”を生みだしました。こうやって、ノット監督は音からドラマを立体的に形作っていました。

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世界の名歌劇場で活躍する歌手たちが勢ぞろいするキャスティングも大きな注目を集めていますが、フィオルディリージ役はミア・パーションが急病のため、ヴィクトリヤ・カミンスカイテが急遽務めることになりました。リハーサル開始時、カミンスカイテはまだミューザへの道中。そのため、ノット監督がフィオルディリージのパートを歌いながら指揮するという貴重な場面も(細かい音符まで見事に歌っていました!)。フィオルディリージ、ドラベッラ、ドン・アルフォンソの3人のレチタティーヴォの最中に、突然フィオルディリージのパートを歌う女性の声が。空港から直行したカミンスカイテが、荷物を持ったままステージに登場したのです! オーケストラから大きな拍手が起こったのち、リハーサルは続行。カミンスカイテは、ドラベッラ役のマイテ・ボーモンとさっそく見事なアンサンブルを聴かせ、五重唱での息もぴったり。ノット監督は指揮しながら振り返って、満足そうに微笑んで5人を見ていました。

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舞台監修を担うのは、ドン・アルフォンソ役を歌うイギリスの名バリトン、サー・トーマス・アレンです。若者たちをそそのかす老哲学者を歌い演じながら、歌手の立ち位置をさりげなく修正したり、ノット監督がオーケストラに指示している最中に、歌手に動きを説明したり。舞台全体を見渡しながら歌う役割と、ベテラン歌手にしか出せない深い響きの歌声は、ドン・アルフォンソそのもの。今回のステージのキーとなる歌手は、間違いなくアレンでしょう。

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舞台上で使う道具は、イス、テーブル、コーヒーカップ、扇子、筆記用具など、ごくシンプルなものですが、ゆえに2組の男女の関係がより明確に浮かび上がってくるのがおもしろいところ。そのなかで、グリエルモとフェルランドの動きがなにやらユニークなのが気になります。アレック・シュレイダー、マルクス・ウェルバ、共に素晴らしいモーツァルト歌いですが、どのような演技をするかも注目です。
デスピーナを演じるヴァレンティナ・ファルカスは、おきゃんな役柄にぴったりな声が魅力的な上に、演技もチャーミング。ノット監督に絡んで、監督も東響のメンバーも思わず笑ってしまう場面がありました。本番のステージでは即興の演技が多々ありそうで、期待大です。

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リハーサルを見学して改めて感じたのは、ミューザに鳴り響くノット&東響のモーツァルトの麗しさ。ノットのタクトに機敏に反応し、いきいきとしたアンサンブルを作り上げる東響の演奏をアレンも絶賛しているとのことで、楽団創立70周年の2016年を締めくくる記念すべき公演になること間違いなしです。圧巻の歌唱と、心温かくなる極上のモーツァルト・サウンドをミューザで堪能する「コジ・ファン・トゥッテ」。お聴き逃しのないように!(文・榊原律子)

※写真は全てレポート当日ではなく、12月8日に行われたゲネプロを撮影したものです。

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