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ミューザ川崎シンフォニーホール
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【インタビュー】ホールオルガニスト:大木麻理さん

2018年4月からミューザ川崎シンフォニーホールのホールオルガニストとして活躍してきた大木麻理が、今年度で任期を終える。8年間にわたり、日本最大級の規模を誇る巨大なミューザのオルガンと向き合い、楽器の管理から企画制作まで幅広い仕事をこなしてきた。最終公演となる12月20日のクリスマス・コンサートでは、佐藤友紀率いる20人のトランペッターズとの共演という前代未聞の華やかな企画で有終の美を飾る。

インタビュアー◎飯田有抄(クラシック音楽ファシリテーター)

8年間を振り返って ~オルガンとの深い対話~

——ホールオルガニストとして最終年を迎えられました。これまでをどのように振り返りますか?

当初は5年の任期でしたが、コロナ禍がありましたので、8年務めさせていただくことになりました。ホールオルガニストの仕事は大きく分けて2つあります。ひとつは、楽器が常にベストを保つように管理をすることです。ミューザのオルガンが持つ5,248本のパイプ1本1本が、いつもベストなコンディションで鳴り、どんなオルガニストにいつ来ていただいても良い状態で奏でられるように、日々の確認を丁寧に行なってきました。もうひとつは、オルガン公演の企画立案です。初年度から必死でしたが、ホールスタッフをはじめオルガンを取り巻く大勢の方々と関わりながら、オルガン文化の多彩な発信に努めてきました。

舞台中央のリモートコンソールでラジオ体操の演奏をする大木。客席では子どもたちが立って体操をしている。
2025年こどもの日オープンハウスにて。
“パイプオルガンでラジオ体操”はコロナ禍後すっかり定着し、オープンハウスミニコンサートでの名物となった。
©増田雄介

——8年間じっくりと向き合われたミューザのオルガンには、どんな魅力があると感じていますか?

今の私にとっては、一番仲のいいオルガンです。感心するのは、ソロでも、アンサンブルでも、オーケストラと合わせてもとてもバランスがよく、素晴らしい響きをもつミューザのホールと一体となって、素直な響きを出せる万能な楽器であるというところ。でも最近になって、案外気難しい一面もあるとわかってきました。深く付き合えば多彩な面が見えてくるのは、人間関係と同じですね。

——企画面でのお仕事はいかがでしたか?

ミューザほど多彩なオルガン公演を実施しているホールはなかなかないと思います。型にはまったものから飛び出すことを恐れずに、企画を形にしていく実行力のあるホールなのです。オルガンの名曲ばかりを紹介するような、オーソドックスなコンサートだけでなく、何か新しいアイディアが求められるであろうことは、就任当初から感じていました。だからといって奇をてらうのではなく、バランスよく、多くのお客様にミューザのオルガンの表情をお届けしたいと考えてきました。

——印象に残っている公演は?

ふたつあります。ひとつはホールアドバイザーで大先輩のオルガニスト松居直美さんが企画された、ベルリオーズ作曲の「幻想交響曲」オルガン編曲版のコンサート。「大変な企画ですね」と言ったら「あなたが弾くのよ」と(苦笑)。あれは大きな挑戦でしたね。レジストレーション(音色の組み合わせ)を一公演であんなに使ったことはありませんでした。でも、あの挑戦があったおかげで、ミューザのオルガンと一段と仲良くなれました。

もうひとつは、私が大好きなミュージカルとのコラボ企画です。2回も実現できました。ミュージカル・ファンの方々にもオルガンを知ってもらえて、お客様の層が広がりましたし、会場の反応も大きかったです。それまでのオルガン公演とはまた違った盛り上がりを作ることができました。

青い照明に照らされているオルガンと、リモートコンソールにて演奏する大木麻理の写真。
2021年2月 ホールアドバイザー松居直美企画 パイプオルガンで聴く幻想交響曲 にて。オルガンソロで幻想交響曲を見事に弾きあげた。
©青柳聡

舞台中央にリモートコンソールでオルガンを弾く大木と、周りを囲むようにミュージカル歌手が歌ってポーズを決めている。
2022年の MUZAパイプオルガン クリスマス・コンサート にて。ミュージカルとの初共演が叶った。
©平舘平

——ホールオルガニストの経験を通じて得られたことは?

かつて私は、オルガニストは孤立しがちだと感じていました。一人で演奏できる楽器なので、奏者はホールに行き、プログラム曲を弾けば、それで完結すると思っていたのです。しかし実際は、公演を1つ制作するにも、ホールスタッフをはじめ本当に多くの方が関わり、みんなで作り上げていくものなのだと学びました。オルガンは昔から教会の象徴ですが、現代では音楽ホールの顔としての存在感を放ちます。日本ではとくに、コンサートホールのオルガンとして独自の文化が花開いていますね。スタッフの皆さんの理解や熱意、お客様のサポートによって、私たちオルガニストはさまざまなチャレンジができているのだと実感しました。オルガンという楽器と、社会とのつながりを知れたのは、一番大きなことでした。

任期最終公演への思い ~20人のトランペッターズと華やかに~

——ホールオルガニストとして最終公演となるクリスマス・コンサートについて教えてください。

佐藤友紀さん率いる20人のトランペッターズとの共演です。オルガンは管楽器ですから、特に金管楽器との相性が良いですね。他の楽器とのアンサンブルでは、オルガンは音量を控え目にすることが多いのですが、華やかなトランペットとアンサンブルをしている時は、オルガン本来の音量を生かし、素直な声を出せるのです。最終公演ということもあり、打ち上げ花火のように賑やかで美しい公演にしたいと思います。

クリスマスコンサートのチラシ画像
クリスマス・コンサート2025のビジュアル。
アーティスト写真もこのために撮影し、イメージぴったりに仕上がった。

——この編成は前代未聞の編成ですね。プログラムの聞きどころは?

祝祭的なフレッチャーの「フェスティバル・トッカータ」、トランペットの名曲であるホヴァネスの「聖グレゴリウスの祈り」、サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」のアレンジ版などに注目してほしいですね。

「オルガン付き」は私にとって特別な作品です。というのは、コロナ禍でミューザと東京交響楽団が取り組んだ無観客配信公演(2020年3月8日、大友直人指揮、東京交響楽団)で演奏した曲なのです。当時は相次ぐコンサートの中止で、絶望の淵にいたので、この公演は私に希望を与えてくれたのです。そんな思い出のある大切な曲なので、この最終公演では絶対にプログラムに入れたいと思いました。今回の編成では、オルガンはオーケストラパートも含まれた壮大なアレンジになると思います。

当日はクリスマス・プレゼントの抽選会も行います。華やかで楽しいひと時をお届けしますので、ぜひ会場にお運びいただきたいです。

MUZAパイプオルガン クリスマス・コンサート2025
~大木麻理&20人のトランペッターズ~


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