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HOME  / ブログ / 「スパイラル」バックナンバー / チャイコフスキー:マンフレッド交響曲

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲

6月名曲全集のテーマは、バイロンによる劇詩「マンフレッド」の物語。チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」で重要なパートを担うファゴットの視点から、東京交響楽団ファゴット奏者・前関祐紀さんが解説します。

すべての楽章に登場するマンフレッドのテーマ
ファゴットが暗く沈みゆく音色で演奏します

東京交響楽団ファゴット奏者 前関 祐紀

Photo by N.Ikegami

チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」は、イギリスの詩人バイロンの劇詩「マンフレッド」を描いた交響曲です。作曲のきっかけは「ロシア5人組」のバラキレフからの依頼でした。バラキレフは最初ベルリオーズに依頼したものの最晩年で体調がすぐれず作曲できなかったため、その後しばらくしてチャイコフスキーに話をもちかけたのです。そして、交響曲第4番と第5番の間の時期に作曲されました。

物語は、人智を極めたアルプスの城主マンフレッドが、愛したため死に追い込んでしまった恋人アスタルテのことを忘れたくて精霊に頼むものの拒まれ、死をもとめてアルプス山中をさまよい、最後は黄泉の国の宴でアスタルテの霊と出会い、苦しみから解放されて死ぬ、というもの。苦悩してアルプスをさまようマンフレッドを描く第1楽章、アルプスの妖精があらわれる第2楽章、牧歌の第3楽章、黄泉の国の宴でアスタルテの霊が呼び出され、マンフレッドが死ぬ第4楽章、の全4楽章から構成されます。

シュタインバッハ滝、「マンフレッド」の1シーンより(出典:”The Illustrated London News, volume XLIII” October 17, 1863.)

交響曲はファゴットとクラリネットによるマンフレッドのテーマで始まります。この暗いテーマはすべての楽章に登場する重要なテーマで、それをファゴットは任されています。曲冒頭でファゴットが暗い主題を吹くのは、交響曲第6番「悲愴」と同じ。チャイコフスキーはファゴットの音に暗く沈みゆくイメージを持っていたのでしょう。明るい音色感を持つ私でさえ、チャイコフスキーの曲を吹くと暗く重い音色になる、そんなふうに書かれています。

木管楽器にとってチャイコフスキーの交響曲は技術的に難しく、なかでも「マンフレッド交響曲」はその極みです。第2楽章、妖精が踊るような軽やかなスタッカートは聴き映えがしますが、木管楽器は絶妙な間合いで掛け合わなければなりません。さらに、冒頭は8分休符で始まるため半拍ずれて聴こえてしまい、初めて演奏したときは正しい拍が取れずとても苦労しました(苦笑)。

チャイコフスキーの交響曲は、1曲のなかで両極端なことを要求されます。例えば、第1楽章冒頭のテーマを暗く表現するのと、第2楽章の速いスタッカートをきらびやかに吹くのとでは、本当ならば同じリードでは吹けないほど違います。しかしリードを替える時間はないので、1つのリードで演奏しなければなりません。また、「マンフレッド交響曲」はチャイコフスキーの他の交響曲と違って3管編成。ファゴットは3人とも広い音域と表現を求められ、旋律・対旋律・伴奏のすべてを任されます。ちなみに3番ファゴットは1、2番奏者と異なる動きをすることが多いのですよ。楽器を構えるタイミングも違うことがあるので、ステージをご覧いただくとよく分かると思います。

第4楽章の後半でフーガが始まったり、オルガン(ハルモニウム)(※)が登場したりするのは、チャイコフスキーの交響曲では珍しいかもしれません。終盤にはグレゴリオ聖歌の「怒りの日」が引用され、ファゴットが演奏します。フーガや「怒りの日」というとベルリオーズの「幻想交響曲」のようですよね。
(※ 事務局注:6月16日のコンサートでは、「原典版」を使用するためオルガンは入りません)

私が一番好きな部分は第3楽章冒頭のオーボエののどかな旋律で、心が安らぎます。第2楽章のトリオの優美な旋律も好きです。この旋律は、途中からチェロと共に3番ファゴットも演奏しています。

「マンフレッド交響曲」は標題音楽ゆえ、場面転換やテンポの移り変わりが激しく、音楽に合わせて映画が上映できると思えるほど情景が目に浮かびます。音楽から物語を感じ取っていただけるよう、映画を見ている感覚になるような演奏ができたらと思っています。6月の「名曲全集」は1曲目もシューマンの「マンフレッド」序曲。マンフレッドの世界をお楽しみください。

(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」より転載/取材・文:榊原律子)

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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第147回
~巨匠スダーンが紡ぐ、マンフレッド~



【日時】2019年6月16日(日)14:00開演
【会場】カルッツかわさき(川崎市スポーツ・文化総合センター)

指揮:ユベール・スダーン
ピアノ:菊池洋子

シューマン:「マンフレッド」序曲
シューマン:ピアノ協奏曲 イ短調
チャイコフスキー:マンフレッド交響曲

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