ニールセン:交響曲第4番「不滅(滅ぼし得ざるもの)」【東京交響楽団ティンパニ奏者:山村雄大】
2025.07.08
友の会 / 「スパイラル」名曲のツボ / 友の会
第3部は音変え、第4部は2人の奏者のバトル!
ティンパニが大活躍する交響曲

取材・文:榊原律子
交響曲第4番「不滅」を初めて聴いたのは高校生のとき。ユーチューブでティンパニがかっこいい曲を探していたら出てきました。当時はティンパニ2組で盛り上がるところを聴いて「派手な曲だな」と思いましたが、今回久しぶりに改めて全曲を聴いたら、かっこいい場面もあれば楽しい田園風景もあり、そして最後は壮大に終わるというストーリー性を感じました。
作品は単一楽章で、4部に分けられます。第1部は最初からティンパニが他の楽器とは独立した動きで、この曲ではティンパニが重要だと示して始まります。第2部ではティンパニはお休み。RPGゲームの村のBGMのような心地よい音楽で、実は「不滅」の中で一番好きだったりします(笑)。
ティンパニが技術的に大変なのは、弦楽器とティンパニだけで始まる第3部。音変えがとても忙しい曲です。最初の6小節で半音階を含む9つの音が出てきますが、ティンパニには4つの音しかありませんから、ペダルを踏んで音を変える必要があります。ティンパニは半音階が苦手な楽器なのです。楽器についているチューニングゲージを見ながらペダルを踏みますが、同時に譜面も指揮も見なければいけません。第3部は厳かな曲想ですが、ティンパニ奏者が足も目も一番慌ただしく動かしているのはこの部分でしょう。第3部が進んで管楽器も加わり、盛り上がった頂点でティンパニが入るところ、ここはワーグナーを思わせる壮大な響きでとても好きです。音はミとシの2つだけ。細かく激しく叩くより、このように堂々と叩く方が僕は好きで、全曲中で一番幸せに感じるところだと思います。
第3部の最後、弦楽器が速いパッセージで駆け抜けますが、その最後でティンパニの2番奏者が登場。そして始まる第4部ではティンパニが2組になります。ティンパニ奏者が2人いる作品の場合、通常2人は音楽的に“寄り添う”のですが、「不滅」は“対立”であり“バトル”という感じ。楽器はステージの両サイドに置き、離れた場所から主張し合います。1番と2番はほぼ一緒のリズムを掛け合うので、正確性と自分を貫くパワーが求められます。
「不滅」の2番奏者はおいしい役割です。第4部の最後、リズムを刻んでかっこよく曲を締めくくるのは2番奏者。そもそも第3部最後のあんなに目立つ箇所を、1番奏者ではなく2番奏者に叩かせるのも面白いですよね。2番奏者がいるなら第3部最初のペダリングが忙しいところも分担して叩いてくれればいいのに、と思ったりしますが、きっと1人で叩くことで生まれる緊張感をニールセンは求めているのでしょう。

「不滅」に限らずニールセンの作品を演奏するのは、僕にとって今回が初めてです。自分の音楽家人生で「不滅」がこんなに早く巡ってくるとは思っていませんでしたが、秋山先生の指揮で東響が日本初演した作品とのことで縁も感じています。
「フィナーレコンサート」は、実はバルトークのヴァイオリン協奏曲第2番もティンパニにとって難曲なので、ある意味ティンパニの聴きどころ満載の演奏会です。指揮は原田慶太楼さんですから熱く盛り上がることでしょう。終演後の達成感が、僕自身とても楽しみです。
(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「SPIRAL」vol.85より「名曲のツボVol.74」)