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井上道義が語るブルックナー&交響曲第8番

今年のサマーミューザで一番の重量級プログラムとなった読売日本交響楽団によるブルックナー8番。指揮者の井上道義さんに大いに語っていただきました。(取材・構成=柴田克彦)

指揮者 井上道義 (c)高木ゆりこ

ブルックナーの8番は読響との出会いの曲

私は長い間、夏休みは指揮をせず、作曲に費やしていたのですが、ひと区切りついたので、今年は読響さんのコンサートを指揮することになりました。
50年ほど前にギュンター・ヴァントが日本のオークストラで初めてブルックナーの交響曲第8番を指揮した際(*)、リハーサルを見学させてもらったのが、私の読響との出会いでした。そこで今回思い切ってその曲を提案したところ、受けていただきました。最近は読響を指揮する機会が多いのですが、ブルックナーで共演するのはおそらく初めて。私は7番に比べると8番を振る機会が少ないので、より新鮮な気持ちで臨めます。真夏に行われるフェスタサマーミューザでこうした大曲のプログラムは貴重だと思いますし、出会いの曲で読響と共演できるのはとても嬉しいですね。

ブルックナー交響曲第8番リハーサル風景(7月29日)

音楽にしかできない大伽藍

ブルックナーは、身体的にとても合う作曲家。ムリがないんです。指揮者というのは、身体から発するものが音楽になるので、これは大事なことです。
私は、自費を投じて交響曲の全曲演奏会を行うほどショスタコーヴィチに力を注いできましたが、それは彼に対して「ああいう人間になりたい」という憧れがあるからです。でもブルックナ ーは違います。人の前では震えるような性格で、少女趣昧で、オーバー・ロマンティック……。そうしたいびつさをもちながら、作曲することでバランスをとっていたのでしょう。いわば誇大妄想的な”アーティスト”で、自分の描く世界観に浸っている。そういう人間にはなリたくないですね。
しかし彼が作り上げた音楽は、まさしく音楽にしかできないものです。建築で言えばサグラダ・ファミリアの如く一人では完成できないものであり、彼の音楽のような大伽藍は絵にも描けない。作曲家だからこそできた作品と言うしかありません。ですからブルックナーの音楽には心を奪われますね。特に5番以降の交響曲、中でも7、 8、9番は本当に素晴らしい。ただ彼は、LPレコードさらにはCDの時代になってから広まった作曲家。目を閉じて聴けばいいけど、DVDで親てもあまり面白くない。ブルックナーの作品はあくまで“音楽芸術”であって、”舞台芸術”ではないと思います。

神の存在を捉えようとする、“石造りの文化”の音楽

ブルックナーの音楽について、私が師事した大指揮者チェリビダッケはこう言っていました。「ブルックナーがやりたかったのは、宇宙や地球の原理がどこにあるのかを探るような音楽。それは『人が自然に美しいと思えるものが美しい』というところに行き着くのではないか。また素粒子という1つのものが宇宙を作っていて、そこに神の存在を感じる。ブルックナーはそれを音楽で捉えようとした人だと思う」。
さらに言えば、‘‘石造リの文化”の音楽であり、そこにあるのは“空閻の大きさ”です。キリスト教が大きなカテドラルを作った。その意昧は1つ、”神の存在”でしょう。ですからブルックナーの音楽を演奏するには、‘‘殿堂”を感じさせてくれるいいコンサートホールが必要。ミューザ川崎がそれに相応しいことも、今回ブルックナーを取り上げた理由の1つです。

カラーがある8番は、誰もが楽しめる作品

交響曲第8番は、ブルックナーの曲の中でも色=カラーがあり、非常に曲線的です。カラフルで曲線的ということは、良い意昧での官能性があります。ですから初めて聴く人もブルックナーが苦手な人も十分に楽しめると思います。
また彼の曲は即興的な面を感じさせます。元々専門だったオルガンの演奏が即興的であることに関係があるかもしれません。つまり何かを探るような音楽なので、聴かれる方にはそこを楽しんでもらいたいですし、自分が作曲しているつもりで聴くと、より楽しめるのではないでしょうか。
それからハーモニーがさほど難しくない。高度なハーモニーを使ってはいますが、難しく響くことを狙っていないし、不協和音がどういう形で協和音になるかを楽しむ音楽でもあります。
ただし、いい演奏、いい音でないといけません。その点、今の読響ならば万全ですし、ホールの響きも助けてくれるでしょう。
あと1つ、終わってすぐに帰らないで、余韻に浸ってほしい。外に出た途端に「暑い!」と感じるでしょうから、少し涼みながら……。なので本当は、終演後もホールのカフェを開けておいてほしいと思いますね。

*1968年6月20日(木)、読響〈第48回定期演奏会〉東京文化会館

【公演情報】
2019年7月31日 (水) 19:00開演
(18:00開場/18:20~18:40指揮者によるプレトーク)

指揮:井上道義
ブルックナー:交響曲 第8番(ノヴァーク版 第2稿 1890年版)

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