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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番

10月名曲全集で取り上げる「ブラームス:ピアノ協奏曲第1番」を東京交響楽団首席ファゴット奏者・福井蔵さんが解説します。ブラームスに相応しい響きや、ファゴットの役割・聴きどころなどを語っていただきました。

ブラームスのピアノ協奏曲は「ピアノつき交響曲」
第2楽章がきれいに響いたときは、最高に快感!

東京交響楽団 首席ファゴット奏者 福井 蔵

Photo by N.Ikegami

ブラームスの作品は、総じてテクニック的に難しいところはほとんどありません。吹くだけなら、中学生でもできてしまうかもしれません。しかし、音を出すだけではブラームスにならないんです。ブラームスの音楽は、オルガンを念頭において書いている節があります。そのオルガンのような響きの中にぴったりはまるよう“ブラームスの音”を作り出すことが難しいのです。ピアノ協奏曲第1番のファゴットは、特に第2楽章の冒頭や最後の部分がそうです。ファゴット2本で音階を奏でますが、ここはものすごく神経を使う場面なんです。楽譜には「ソロ」と書いてありますが、メロディのようには吹いていません。巨匠と呼ばれる人の録音を聴いても「何の音かな?」と思うくらい、響きの中に溶け込んでいます。

第2楽章冒頭は、他の楽器はpなのに、ファゴットはpp。きれいなハーモニーを作らなければならないので、2番奏者は特に難しい箇所です。第2楽章最後は、全楽器がpp。口が疲れてきたところに、発音もバランスも音程もすべてきれいに吹かないと、ここで曲が台無しになってしまう。オーケストラで“難しい”というのは、こういう箇所を言うのです。ソロを吹くより、ずっと難しいと思います。

ちなみにppは「小さい音」ではなく、「遠くから聴こえてくる」というイメージで吹いています。音量を絞ってしまうと響きがなくなってしまい、他の楽器の響きと合わなくなってしまうのです。ブラームスを吹くときは特に、楽器の一番いい音色を出すよう心がけていますので、リードは相当選びます。とはいえ100%のリードなんてありませんから、結局は自分の頭の中のイメージに沿って吹きます。

ブラームスの木管の後列(ファゴット、クラリネット)は、ホルン3番・4番と似て、和音を作ってメロディを引き立てる役割をすることが多く、また、ファゴットは低弦と一緒に動くことがよくあります。古い時代では通奏低音の楽器だったので当然のことですが、ベートーヴェンよりブラームスのほうが顕著です。ホルンやオーボエはきれいなソロが吹けていいなあ、と思うこともありますが、ピタッとハーモニーが決まったときには、本当に気持ちがよいです! 第2楽章の冒頭と最後がきれいに響いたら、こんな快感は他にありません。誰もわかってくれないかもしれませんけど(笑)。

ブラームスの音楽の特徴として、拍をわざとずらして書いてあるところがあります。たとえば第3楽章が始まって長調になるところのピアノは裏拍から始まります。しかも同じメロディをなぞるヴァイオリンはピアノより16分音符ぶん後に出るので、演奏がずれてしまったように聴こえるかもしれません。交響曲にも拍のずれがたくさんあります。拍を合わせてくれれば吹きやすいのに、と思うこともありますが、これもブラームスの面白さなんでしょうね。

僕らにとってブラームスのピアノ協奏曲は、交響曲のなかにピアノ・パートがあるイメージ。ほぼ交響曲だと思って演奏しています。今回指揮するのはジョナサン・ノット監督です。曲の流れを大事にするマエストロとのブラームス、とても楽しみです。

(ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.40(2014年4月1日号)より転載/取材・文:榊原律子)

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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第150回
~ジョナサン・ノットの「未完成」~


【日時】2019年10月13日(日)14:00開演
【会場】ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ジョナサン・ノット
ピアノ:ヴァーヴァラ

アイヴズ:答えのない質問
シューベルト:交響曲第7番「未完成」
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番
※アイヴズとシューベルトは続けて演奏されます。

公演詳細はこちら

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