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ロッシーニ:ファゴット協奏曲

幕が開き、テノールがアリアを歌い、最後はハッピーエンド
喜劇のオペラをイメージして演奏します

東京交響楽団 首席ファゴット奏者
福井 蔵

オペラの作曲家ロッシーニの協奏曲、しかもファゴットのための作品だなんて珍しいですよね。ファゴット奏者セルジオ・アッツォリーニが楽譜を発見して2000年に校訂し、出版した作品なので、世の中で演奏されるようになってまだ10年ほど。僕も今回が初めての演奏です。「ウィリアム・テル」(1829年初演)を最後にオペラの作曲から引退したロッシーニが、1840年代に手がけた作品のようですが、自筆譜ではなく、筆写譜に基づいて出版譜は作られたそうです。だからというわけではありませんが、本当にロッシーニが作曲したの?と思う部分もあります。そのひとつが、音の高さです。「ド」や「レ」の高い音が出てきますが、高い「ド」とはストラヴィンスキー「春の祭典」冒頭と同じ音。20世紀初頭の楽器ですらキーがなかった「ド」の音を、ロッシーニが楽譜に書いたのだろうかと不思議なのです。

ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792年-1868年)

とはいえ、第1楽章の冒頭はロッシーニ風ですし、第2楽章はテノールのアリアを思わせるので、オペラをイメージしながら音楽を作っています(※)。たとえば、第1楽章の冒頭はオペラの前奏で、5小節目の強音で幕が開き、テノール歌手(=ファゴット)が歌い始める、というイメージです。第2楽章は重々しく深刻な音楽で始まりますが、これは、わざと暗い表情をしている、半分冗談というニュアンス。つまり、ウソ泣きして相手に情で訴えているような場面だと思います。そして第3楽章は大団円。というようにロッシーニの喜劇のイメージで練習しています。

ロッシーニは“歌の作曲家”だと改めて感じる音型が第2楽章にあります。それは同音反復の音型(※)です。協奏曲の独奏ではあまり見ない音の動きですが、歌詞があると考えると納得の音型なのです。そんな音型をファゴットでどう吹くか。しかも3回も登場しますから、考えどころです。
この曲の難しさのひとつに音の跳躍があります。第3楽章で、ファゴットの最低音を吹いた次に、2オクターブ+5度も上を吹くという跳躍です。高音は口を閉めねばならず、しかし口を閉めると最低音は全く出ないので、息の圧力をかけて口を緩めます。20度もの音程の跳躍ですから相当な圧力が必要で、それを繰り返すとなると、お腹が痛くなります……。

第3楽章は、最後に向けて盛り上がる3連符の連続はとにかく難しく、演奏家によってはここが演奏可能なように全体のテンポを決めるほど。何が難しいかというと運指です。ファゴットには、互い違いの指を2本同時に押さえるクロスフィンガーという指使いがあるのですが、それがこの箇所ではたくさん出てきます。転がるような3連符をクロスフィンガーで吹くのは、かなり大変なのです(※)。
指使いでいえば、オーケストラでは、きれいな響きで音量を落とすために「替え指」という指使いをするのですが、この曲では「替え指」だと追いつかないため、普段使わないシンプルな指使いにする箇所もあります。ただ、そうすると音色に差が出てしまうので、どの指使いでも同じ音色に聞こえるよう現在練習中です。

さらにリード楽器の宿命で、オーケストラの中で演奏するときとは異なる、協奏曲に適したリードができるかどうかという問題もありますが、ファゴットがクローズアップされる滅多にない機会です。ファゴットを演奏される方はもちろん、あまり知らない方も、この楽器の魅力あふれる音色をぜひ聴きにいらしてください!

※印がついた部分はページ冒頭の動画で福井さんの演奏をお聴きいただけます

ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」Vol.56(2018年4月1日号)より転載/取材:榊原律子

ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団「名曲全集第136回」

◎日時
2018年 4月22日 (日) 14:00開演

◎出演
指揮:ジョナサン・ノット
ファゴット:福井蔵(東京交響楽団首席奏者)

◎曲目
ロッシーニ:歌劇「絹のはしご」序曲
ロッシーニ:ファゴット協奏曲
シューベルト:交響曲第6番

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