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『もうひとりのはかせ』ー絵本作家おむらまりこさんインタビュー

2018.12.06

From_Muza

今年のMUZAパイプオルガン・クリスマスコンサートは、朗読劇と演奏でお贈りするクリスマスのスピン・オフ・ストーリー『もう一人の博士』。
原作はイエスの誕生にあわせ拝みに行く東方三博士の物語をもとにアメリカの牧師ヘンリ・ヴァン・ダイク(1852-1933)が創作した、4人目の博士のお話で、『The Story of the Other Wise Man 』として1895年に発表されました。日本でも1951年(昭和26年)に主人公の名前から『アルタバン物語』として出版され、親しまれるようになりました。

今回ご紹介するのは、この物語を子ども向けに翻案した絵本『もうひとりのはかせ』(新教出版社、2018年)と、その絵を描いたおむらまりこさんです。実は本公演のチラシの中央に使われているのはこの絵本の中の1コマなんです。

今年10月に出版され、アマゾンのレビューでも「ことしのクリスマス最高の新作絵本」と絶賛される物語と美しい絵。おむらさんのご自宅でたっぷりとお話を伺って来ました。

***

10年越しの「もう一人の博士」

MUZA(以下M):おむらさんは都内の小学校で図工の先生として勤める傍ら絵本制作を行っており、これまでにキリスト教関連の絵本を6冊ほど出版されています。また、2歳と小学2年生のお子さんを育てるお母さんでもあります。
そんなおむらさんと「もう一人の博士」の物語との出会いは約10年前にさかのぼります。

おむらまりこ(以下おむら):10年程前、勤務校初任の年に子ども達が演じていたのが「4人目のはかせ」、つまり「もう一人の博士」の物語でした。
私はスポットライト係で、堂々と演じる子ども達に、スポットライトを当てながら「いい話だな」と直感的に感じていました。その時はスポットライトを当てることに一生懸命でしたので(笑)内容を深く読み取ることはできなかったのですが、お話をしっかり読もう、いつか絵本にできるかもしれないと、当時の校長先生による台本はずっと捨てずにとってあったのです。

その時の貴重な台本!

そして昨年の暮れ、これまでに2冊ご一緒している中井俊巳さんから新教出版社からでている「もうひとりの博士」の絵本化の話をいただきました。新教出版社の社長の小林望さんの快諾を得て、10年越しの願い実現の道が突然開いたという訳です。とてもうれしかったです。

そしてさらに偶然、オルガニストの松居直美さんが原作本の朗読劇をクリスマスコンサートとして企画されると聞き、とっても驚きました。

M:10年越しに、この物語が様々なご縁を引き寄せているようにも思えますね。

~「もう一人の博士」あらすじ~
このお話はイエスの誕生を拝みに行こうとするアルタバンという男の人の物語です。全財産を売り、救い主に捧げるための宝石を買って急いで向かうのですが、途中で倒れている人を見つけてしまい、その人を助けたことで一緒に行くはずだった東方三博士との待ち合わせに遅れてしまいます。ようやくベツレヘムに着いたときにはすでにイエスの一家はそこを発ったあとでした。
その後もイエスを探してエジプトなどを旅しますが、一向に見つかりません。そればかりか、道中で出会った貧しい人や飢えた人、病気の人などを見ては助けて歩き、気が付くと33年もの年月が経っていたのです。
年老いたアルタバンがエルサレムにやってきたとき、イエスはまさに十字架にかけられようとするところでした。33年間探していた救い主の危機に激しく動揺するアルタバン。なんとか救いたいとゴルゴダの丘に急ごうとしていたその時ですら、困っている若い娘を見捨てられず捧げものの真珠を差し出してしまいます。
その時激しい地震が起こり、落ちてきた瓦に当たったアルタバンは倒れてしまいます。
やがてイエスの声が聞こえ、アルタバンはイエスとはじめて言葉を交わすのです。私は何のお役にも立てなかった、と言うアルタバンに対しイエスは言います。
「わたしのきょうだいであるもっとも小さなものの一人にしたのは、わたしにしてくれたことだ」
アルタバンは安心し、静かに息を引き取りました。

志の強さと心の優しさ

M:アルタバンの魅力はどんなところにあると感じられますか?
おむら:アルタバンは、一度はかなえられなかった願いを諦めることなく一生を捧げる志の強さと、どんなに急いでいても目の前の弱いものに手を差し伸べる心の優しさを併せ持っています。
アルタバンの志とは名誉や名声のためではありません。もしそうだとしたら、弱いものを見ても見てみぬふりをするでしょうし、無条件に手を差し伸べたりしないで、前に進むことを急いだと思います。

M:もちろん時代は違いますが、今に置き換えてみてそのような行動が取れるかどうか・・・
救い主に会いに行くということ自体が、大事な目的でもあります。一方で、遅れることがわかっていても、困った人を助けずにおれない。どちらを選ぶということはできない、難しい選択に思えます。

おむら:常に選択がありますよね。止まれるか、止まれないか。自分より小さく弱い人がいれば立ち止まって歩み寄る、もし求めているのであれば自分の大切なものですら差し出せるのであればそれは愛のある人です。大事なもの=物ではなく、時間もそうですよね。

私が一番気に入っているページは、マタイ福音書25章31節以下のメッセージとともに星空を描いたページなんです。
聖書の言葉を大切にしたくて、出来るだけシンプルに表現しました。この頁からはもっとも小さなもの、困っているものに、自分の大切ななにかを与えられるものこそ本当の愛あるものだということが読み取れます。
もっとも小さなもの達とは、黙っていたり、主張しなかったり…助けてほしいと言わないのです。
私はキャンプへ行くのも好きなのですが、星空を見上げる時の様に心を落ち着かせ、心の耳と目を開けば、困っている人や弱くて小さい人に気付けるのでは…という想いを込めました。

美しい星空のページ
M:このメッセージがすべてを表しているのですね。
アルタバンが行ったこと—つまり小さな、弱いものへ愛を注ぐことこそ、イエスの望んでいたことであり、最も大切なことだと・・・

おむら:アルタバンの姿を見て我が身を振り返った時、小さな、弱い人たちの声をちゃんと聴けているかということを考えさせてくれます。
偉そうな態度を取っていないか、人を見下していないか、逆に自分を卑下していないか。
母親として子どもの声に耳を傾けているか、先生として目立つ子ばかりに目が行っていないか、現代の私たちに置き換えてみても、アルタバンは今に通じる大切なことを私たちに思い出させてくれます。

それぞれの場面についてお話が盛り上がりました♪

今回は楽しく描こうと決めた

M:『もうひとりのはかせ』は、おむらさんのこれまでの作風とずいぶん違うように感じます。

おむら:絵の勉強をしていると、どうしても技術的なことや構成などに頭を使ってしまいます。
今回はそうではなく、「楽しくなければ描かない」と決意した点で今までと違うのです。
普段は小学校で図工を教えていますし、我が家の子どもたちも絵を描きますが、子どもたちは自由なんです(笑)。作ることに喜びを持っているんですね。私も、作ることの喜びを感じてほしいと思い指導していますが、私自身が苦しみながら制作していたら子どもたちに対して説得力がありませんよね。ですから、『もうひとりのはかせ』は単純に楽しむこと、感覚のままに描くことを特に意識して表現しました。そうしたら、今までにない表現になりました。おむらまりことしての作風の一貫性はないのかもしれませんが、物語を伝えるのに最もよい表現をこれからも追求していきたいです。そして子ども達にも表現の喜びを伝えていきたいです。

貴重な原画も見せていただきました!
M:モザイクや質感がとても美しいですね。
子ども向けではありますが、大人も一緒に何度も読み直して、あ、ここに天使がいた、リスがいた、フクロウがいた、と絵をじっくり読み解くのも楽しい絵本だと思いました。
でもこうした細かい制作は子育てをしながらでは大変ではありませんか?

おむら:実は子どもたちを寝かしつけてから、リビングのテーブルで作業をしているんです。
やはり子どもが起きている時間では難しいですね(笑)

M:最後に一言・・・

おむら:ミューザは360度ステージを取り囲んだ会場で、舞台装置も今回はないと伺いました。『もうひとりのはかせ』が大岡淳さんの演出により、どのような世界観で表現されるのか、言葉と音楽がどのように重なり合うのか、いまからとっても楽しみにしています!!

ご自宅で。左上の絵はNODA・MAPのポスターに使われたもの

 

終始おだやかな笑顔で、お答えくださったおむらまりこさん。
お菓子やコーヒーをいただきながら時々ママ友ノリ(!?)になりつつ楽しいインタビューの時間を過ごさせていただきました♪ どうもありがとうございました!

コンサート当日は『もうひとりのはかせ』の会場販売も予定されています。
ぜひ多くの方にお読みいただきたいです!

おむら まりこ
目黒星美学園小学校図画工作科講師。武蔵野美術大学大学院修了。在学中より多摩秀作美術展(佳作賞)、ART BOX大賞展(遠藤彰子賞)など受賞。池田満寿夫記念芸術賞など多数出品。著書に絵本『たいせつなおくりもの』『ヨハネ・ボスコのたいせつなゆめ』『ながさきアンジェラスのかね』(ともにドン・ボスコ社)、『マザー・テレサ 愛と祈りをこめて』(PHP研究所)など。『森本千絵 うたう作品集』(誠文堂新光社)、「NODA・MAP第19回公演エッグ」などイラスト協力もしている。

『もうひとりのはかせ』
原作 ヴァン・ダイク/文 中井俊已/絵 おむらまりこ
新教出版社 公式ホームページ

MUZAパイプオルガン クリスマス・コンサート2018
~言葉と音楽で彩るファンタジー「もう一人の博士」~

2018年 12月22日 (土) 14:00開演(13:30開場)
詳しくはこちら

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