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歳をとると音楽の聞こえ方は変わる?

自分の耳は老化しているのか? 音楽鑑賞をされる皆様には気になるトピックですよね。
最近、「耳年齢」の判定ができるサイトがTwitterやネットニュースで話題となっています。

サイトはこちら。
https://panasonic.jp/hochouki/download/dagehg/hearing2.html

このサイトはパナソニックの補聴器普及促進用に作られたものだそうですが、一般の方がTwitterで投稿したことで様々な年代層の方がトライして話題になりました。

今年3月に開催した「MUZAミュージックカレッジ」では、作曲家で早稲田大学教授の菅野由弘さんが「聴こえる音の摩訶不思議な世界」と題して講義を行いました。
その中で、実際に可聴域といわれる音(20Hz〜20000Hz)がどこまで聞こえるかという実験を行ったのです。
「耳年齢」でも話題になっているのは、高周波が聞こえなくなるという事実。果たして・・・?

周波数の高さが上がっていくと、だんだん、手が挙がらなくなっていきます。最後に残ったのは20代のスタッフでした。
なお、菅野さんは毎年大学生でテストをするそうですが、20000Hzまで聞こえたのはこれまで1名しかいなかったとのことです。
人類は加齢によってピッチ(音程)が上がっていくので、絶対音感保持者の菅野さんも、現在では、ほぼ半音高く聞こえるそうです。
絶対音感保持者の菅野さん自身が、絶対音感が狂ったと確信したのは、学生の曲をSkypeで聞いて、評価、アドヴァイスしていたところ、「なんでこんな弾きにくい調で書くのだろう?」と疑問に思ったその瞬間、「理工学部の学生が、こんな調で作曲するはずがない。これは自分の耳の方がおかしい」と気づいたそうです。半音高く聞こえていたことに、ショックを受けたとの事でした。
この実験を通して、「聞いている音は一人ひとり違う」ということを実感していただきました。
また、身体的なことだけでなく、聞こえ方は環境の影響も受けます。たとえばパイプオルガンの重低音はパソコンでは聞こえないし、マスクをすることも吸音材を耳の近くに置いているのと同じなので、ホールの中ではコロナ以前と聞こえる音が変わっている可能性がある。同じ音を聞いているつもりでも身体や環境によって聞こえ方が変わる、という事実は、自分ではなかなか確かめようがないことなので、非常に興味深いお話でした。

この日は東京交響楽団のファゴットセクションによる演奏をお楽しみいただきました。
(出演:福井 蔵、福士マリ子、坂井由佳、前関 祐紀)
なかなかじっくり聴く機会のないコントラファゴットも2本登場し、ファゴットが林立する楽しいステージに。

コントラファゴットは木管の最低音楽器。最高音はもちろんピッコロ。
では、この2つの楽器でデュオをしたらどうなる!?という実験的な新曲をこの日のために作曲していただきました。
現代作品から大河ドラマ「炎立つ」など数々の劇伴作品なども手掛ける大巨匠の菅野先生に「八百屋が来たから野菜ちょうだいという気軽さでミューザのスタッフに作曲を頼まれまして」とトークでばらされ(冷汗)、作っていただいた曲は題して「象とゾウリムシ」。ピッコロ演奏は東京交響楽団フルート&ピッコロ奏者の高野成之さん。

地を這うような低音と、耳をつんざくような高音。音域が違いすぎて、チューニングすらお互い合ってるのかどうなのか?という状態!
貴重な鑑賞体験でした。再演はあるのでしょうか!?

さて、周波数のお話しに戻ります。
高周波の音が聞こえなくなってくるということは、聞こえる音がどんどんマイルドに、柔らかくなっていくということ。
「最近あのオーケストラは音が変わったね」「このホールは建設から何年も経って音がマイルドになった」
お客様からそんな感想もよく聞きます。しかし、昔聞いた音と今聞こえている音が違うのは、もしかすると自分自身の音の聞こえ方が変わってしまった面が大きいのかも・・・? 改めて考えるとちょっとショックなお話かもしれません。

しかし、菅野さんは加齢によって耳の機能が変わったり、他の人と聞こえ方が違うということをネガティブにとらえる必要はないと語ります。人間はそれぞれ違う音の世界に生き、違う感性で音楽を受け取り、一人一人に違う感動があるのです。その違いこそが音楽でいう「共有」であり、「共有」が同じ体験を意味しないことこそが芸術のすばらしさである—講義の最後に語られたお話に耳から、、いや目からうろこが落ちました。

聞こえ方は人それぞれ、なんなら年齢によって音の世界は変わっていくもの。
その音世界の中で、自分が素敵だと思う音を見つける体験こそが音楽鑑賞であり、形を変えながら一生付き合える素晴らしい趣味だと言えるのではないでしょうか。

次回のMUZAミュージックカレッジは2022年1月~3月に開催予定。
また「聴く」ことについての科学的なアプローチのお話も予定しています。
10月中旬に詳細を発表します。どうぞお楽しみに!

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