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ヴェルディ:レクイエム

「ヴェルディ:レクイエム」をもっと愉しむための「名曲のツボ」は、チンバッソという金管楽器。トロンボーンのような不思議な形のこの楽器は、通常テューバ奏者が演奏します。その音の違いは?音楽的な効果は?東京交響楽団首席テューバ奏者・渡辺 功さんが解説します。

イタリア・オペラで使う金管楽器チンバッソ
テューバとは異なる、4番トロンボーン的な響きで演奏します

東京交響楽団首席テューバ奏者 渡辺 功

ヴェルディやプッチーニのオペラを演奏していると、休憩時間にオーケストラ・ピットを見にいらしたお客様から「その楽器、何ですか?」と尋ねられることがあります。イタリア・オペラでは、私はテューバではなく、変わった形の楽器を演奏しているのです。その楽器はチンバッソといいます。テューバと形は違いますが、F管テューバとF管チンバッソは管の長さも指使いも同じなので、テューバ奏者が持ち替えて吹きます。ヴェルディの『レクイエム』でも、テューバではなくチンバッソを吹きます。

↑これがチンバッソ(Cimbasso)。
(YouTube「東京交響楽団 首席テューバ奏者 渡辺功 楽器解説」より。動画を見る

ヴェルディやプッチーニは、なぜチンバッソを使ったのか。イタリアにテューバがなかったという話もありますが、なにより、イタリアの作曲家は“トロンボーン的な音”を求めていたのだと思います。テューバとチンバッソの響きは全く異なり、チンバッソはトロンボーン寄りの音がします。例えばテューバの音が“ブーン”だとすると、チンバッソは“パーン”という直線的な音がして、そのシャープさが“トロンボーン的”なのです。『レクイエム』の中でも、チンバッソは4番トロンボーン的に使われています。ちなみに、昔は日本にチンバッソはなかったので『レクイエム』もテューバで吹いていましたが、響きがはみ出してしまう感覚が拭えませんでした。日本でチンバッソを演奏するようになったのは、ここ20年くらいのことです。

『レクイエム』にはチンバッソのソロはなく、トロンボーンとほとんど一緒に動きますが、その中でもチンバッソが特に活躍する箇所を挙げると、まずはやはり「怒りの日」冒頭でしょう。総奏による強烈な和音のあと、付点リズムで半音階を上がるのは、トロンボーン3本、チンバッソ、合唱の男声パートですので、金管楽器の低音の響きを聞いてみてください。「不思議なラッパが鳴り響き」はトランペット8本で始まった後、金管楽器が一緒に動きますが、ここも自分としてはチンバッソが活躍するところだと思っているので、客席で演奏しているトランぺットだけでなく、ステージ上のチンバッソにもご注目を。「記された書物が」では、トランペットとトロンボーンが静かに演奏したあと、輝かしく金管楽器が吹く部分もチンバッソの聴きどころ。また、「恐るべき威厳の王よ」の冒頭、合唱のバス・パートと一緒に吹く楽器のひとつがチンバッソです。特に、後半に再登場するとき演奏する楽器はファゴット、コントラバスとチンバッソだけ。トロンボーンとは違う動きをしているので、チンバッソの音が一番聞き取りやすい箇所かもしれません。

このように4番トロンボーン的に金管楽器の最低音域を担うチンバッソですが、不思議なことに「怒りの日」の最後で、3番トロンボーンの方がチンバッソより1オクターヴ低い音を吹きます。これはおそらくヴェルディの時代のチンバッソにはそこまでの音域がなかったためでしょう。今のチンバッソなら普通に出せる音です。

『レクイエム』の中で私が最も“すごい”と思う箇所は曲の冒頭です。チェロがひそやかな声のように奏で、そして合唱がささやくように「レクイエム」と歌う。まさに祈るような、琴線に触れる素晴らしい音楽だと思います。第1曲ではチンバッソは演奏しないので、一聴衆としてステージ上で完全に聴き入っています。

今回の公演の指揮者はロレンツォ・ヴィオッティ。非常に若い指揮者で、イタリア系の方ですから、自身のルーツの国の音楽をどうつくりあげるのか、とても楽しみです。

ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」より転載/取材 榊原律子

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ミューザ川崎シンフォニーホール&東京交響楽団 名曲全集第144回

【日時】2019年 1月13日(日)14:00開演
【出演】指揮:ロレンツォ・ヴィオッティ
    ソプラノ:森谷真理、メゾ・ソプラノ:清水華澄、テノール:福井敬、バス:リアン・リ
    合唱:東響コーラス(合唱指揮:安藤常光)
【曲目】ヴェルディ:レクイエム

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