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「最響」な演奏会はどれ…? オーケストラ公演 ココに注目!

夏の川崎を彩る音楽祭「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2016」開幕まで、もうすぐ。
今年も首都圏のオーケストラと川崎市内の音楽大学が勢ぞろいして、熱い演奏をくりひろげます。
充実の指揮者と、選りすぐりの曲が並ぶ今年のオーケストラ公演は、どこに注目したらいい?
サマーミューザを愛する川崎市在住の2人が語ります。

オヤマダアツシ
川崎市在住の音楽ライター。「フェスタ サマーミューザ KAWASAKI」総合プログラムにこれまで多数執筆。サマーミューザを最もよく知る音楽ライターのひとり。

坂入健司郎 (さかいり けんしろう)
かわさき産業親善大使。川崎市在住。コアな音楽ファンから熱い注目を集めるアマチュア・オーケストラの新鋭指揮者。CDに「ブルックナー:交響曲第8番」など。

進行役
榊原律子 (さかきばら りつこ)

音楽ライター&編集者。ミューザ川崎シンフォニーホール友の会会報誌「スパイラル」編集・執筆担当。

座談会

座談会は京急川崎駅近くのダイニングバー「珠」で行われました。なんとマスターも友の会会員の音楽好き!

「一押し」のコンサートは……?
榊原 サマーミューザの季節がやってきます。今年も各オーケストラならではのプログラムがそろいましたが、お2人が注目している演奏会をお聞かせください。

坂入 僕は、なにより、東響の「オープニングコンサート」です。このプログラムが発表になったとき、狂喜しました! ノットさんが指揮するアイヴズがとにかく聴きたくて。アイヴズは実業家として成功した人で、実は日曜作曲家でした。ですから、アマチュア指揮者の僕としては、とても共感が持てるんですよね。作曲は趣味とは言え、アイヴズは時代を先取りした新鮮な作曲技法を用いて、今でもとても新鮮に響きます。そのなかで「ニューイングランドの3つの場所」は聴きやすい曲ですね。
「オープニングコンサート」の曲は、大都会ニューヨークから、ニューイングランドというアメリカ北東部のやや田舎へ行って、そして最後はオーストリアの田園へ、という流れを川崎で聴くという、とてもおもしろいプログラムです。

ジョナサン・ノット

(C)青柳聡

オヤマダ 映像が見えるプログラムというか、「音楽で旅する3曲」とも言えますね。
ヴィラ=ロボス、アイヴズって、名前を知らない方が多いかもしれませんけれど、警戒せずにいらしてくださいとお伝えしたいです。音楽祭での演奏会選びは、作曲家の知名度などで躊躇することにより素敵な曲を聴き逃す可能性もあると思いますので。
ヴィラ=ロボスの「ニューヨーク・スカイライン・メロディ」ってニューヨークのビルのシルエットの線を音で描く作品だそうで。だから非常に実験的な曲だと思いますが、「知らない曲だから」と敬遠するのはもったいない。ベートーヴェンの「田園」と同じくらい期待してほしいと思うくらいです。

榊原 「田園」も楽しみですよね。ノットさんのプログラミングは見事で、選曲にストーリーをもたせることによって、1曲ごとに聴くのとは違った作品像を聴かせてくれます。今回、目からウロコの落ちるような「田園」が聴けるに違いないと期待しています。
そして、オヤマダさん一押しのコンサートは?

オヤマダ クラシック音楽の良さを真正面から知りたい人には、都響のベートーヴェン&ブラームスの交響曲第2番をお勧めしたいです。ベートーヴェンの第2番は、「英雄」「運命」みたいに名前がないので地味ですけれど、第2番こそ最もベートーヴェンらしい交響曲だと、僕は思っています。

坂入 僕もベートーヴェンの交響曲の中で第2番が一番好きです! このプログラムが深いのは、ベートーヴェンもブラームスも、両方ともニ長調なんですよね。

オヤマダ 聴いている方としては、頭の中で平和と安心感にどっぷり浸れる脳内物質が出まくりですね(笑)。

坂入 そして小泉和裕さんが指揮するブラームスは素晴らしいです。

小泉和裕

(C)堀田力丸

オヤマダ 小泉さんの音楽って、老舗料亭で出される揺るぎない味という感じですね。派手な演出はないですけれど、いいものを確実に聴かせてくれます。クラシック音楽の神髄を聴きたい人は、公開リハーサルも含めて、絶対にこの演奏会がお勧めです。

榊原 ドイツの交響曲を2曲演奏するのは都響だけですからね。ドイツものといえば、東京シティ・フィルも濃厚なプログラムです。

オヤマダ ワーグナーが並ぶ、すごいプログラムですね。飯守泰次郎さんとワーグナーというのは、たとえれば、100年くらい継ぎ足している秘伝のタレで鰻を50年焼いているオヤジさんの音楽みたいな、ね。

坂入 ですねえ。聖地バイロイト仕込みのワーグナーですからね。

オヤマダ ワーグナーのパワーをがっしり受け止めるコンサートだと思いますし、「ワーグナー・ベストヒット」みたいなプログラムなので、初めてワーグナーを聴く人にもお勧め。その中で、オアシス的な時間となるのが、モーツァルトのクラリネット協奏曲ですね。

榊原 そのソリストはクラリネットの巨匠ペーター・シュミードルです! とても贅沢なコンサートですよね。

peter_schmidl

指揮者とオーケストラの関係を聴く

榊原 今年のサマーミューザの一番人気は東フィルで、すでに残席わずかです。チョン・ミョンフンさんのチャイコフスキーの交響曲第4番は、強烈なエネルギーをうねらせる感じになるでしょうね。

坂入 弦楽器奏者すべての音がチョンさんの指揮棒の先に集まるんですよね。それがチャイコフスキーの曲想にぴったりはまります。

(C)K.Miura

(C)K.Miura

オヤマダ 公開リハーサルも聴けますね。チョンさんと東フィルは10年以上の付き合いですから強い信頼関係で結ばれていて、それが垣間見られる貴重な時間かもしれません。

榊原 ドイツの歌劇場やオーケストラの音楽総監督を務めた上岡敏之さんは、今年9月に音楽監督に就任する新日本フィルと登場です。

(c)武藤章

(c)武藤章

オヤマダ 上岡さんの指揮を見ていると音楽の表面ではなく「本質はここにあるんだ」ということをズバッと突いているようにも感じられますし、「いま、この楽器に耳を傾けてみて」というサインのようにも見えるんです。今回はスペインの熱狂的な曲を集めた、真夏らしいプログラムです。オーケストラのいろいろな楽器を見たいなら、このコンサートがお勧めですね。「ボレロ」1曲だけでも、あらゆる楽器が登場しますから。

坂入 「アルルの女」は第2組曲ではなく第1組曲を選んだのが素晴らしいなと思う。第1組曲は、静かで、切なさや影のある、魅力的な曲が並んでいるんですよ。

榊原 神奈川フィルは、おしゃれなプログラムが目を引きますね。

坂入 「フィガロの結婚」序曲で始まり、「フィガロの結婚」へのオマージュである「ばらの騎士」の組曲で終わるんですね。川瀬賢太郎さんは「ばらの騎士」が大好きだそうで、入魂のプログラムのようですね。

(C)青柳聡

(C)青柳聡

榊原 情報によれば、川瀬さんやコンサートマスターの﨑谷さんなどで1年前からプログラムを練っていたそうですよ。R.シュトラウスの歌曲集は、「あすの朝」など繊細で本当に美しい曲なので、こちらも楽しみです。

 

「知らない作曲家」を聴こう

榊原 世界的なホルン奏者ラデク・バボラークが日本フィルと共に登場します。ただし、ホルンを吹くのではなく指揮ですが。

バボラーク

坂入 「魔弾の射手」ってホルンが難しい曲ですよね。

オヤマダ 「英雄」もホルン3本の大活躍ですし。そういう曲を選んだのかな(笑)。

榊原 中プロはクーラウのピアノ協奏曲で、おそらく日本初演とのことです。

オヤマダ 仲道郁代さんはここ数年、古い時代のピアノを演奏したり、古典派の曲に光を当てたりされていますから、ベートーヴェンと同じ時代を生きたクーラウにも興味をもたれたのでしょう。

(C)Kiyotaka Saito

(C)Kiyotaka Saito

榊原 クーラウは、ピアノを習った人ならば、ソナチネ・アルバムで弾いた曲の作曲家ですよ。
「知らない作曲家」といえば、東響の「フィナーレコンサート」で演奏するナサニエル・シルクレットもそうでしょうね。ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」の1927年の再録音や、「パリのアメリカ人」の初録音を指揮した人です。トロンボーン協奏曲は1945年に初演した作品で、その後50年ものあいだスコアが紛失して再演されなかったという珍しい作品なんです。今回がおそらくオーケストラ版日本初演になるそうですよ。

ナサニエル・シルクレット-wikipedia

オヤマダ 中川英二郎さんがソロを吹くということは、ジャズの香りがする作品なんですね。「キャンディード」序曲も演奏して、アメリカのポップスとクラシックの間のような楽しい雰囲気を前半に、というプログラムですから、これは秋山和慶さんが適任です。

Akiyama

榊原 シルクレットはたくさんの名音楽家と共演していまして、そのなかにはグレン・ミラーもいるようです。

オヤマダ そうすると、読売日響の“懐かしのジャズ”プログラムと繋がってくるわけだ。グレン・ミラーの名曲などを演奏する読売日響の演奏会は、ご年配の方が昔を懐かしんでデートを楽しむのにピッタリですよ。

グレン・ミラーメドレーを指揮するボブ佐久間

グレン・ミラーメドレーを指揮するボブ佐久間

坂入 グレン・ミラーの作品は今でも吹奏楽でよく演奏するので、若い人にも親しみがありますよね。

榊原 N響のプログラムは「ヒーロー・ヒロインもの」。一番の目玉は「真田丸」でしょうか。

「真田丸」を演奏する服部百音

「真田丸」を演奏する服部百音

坂入 皆さんが毎週日曜日にテレビで耳にするままのN響の音を生で聴けますからね。

大河ドラマ「真田丸」公式サイト

オヤマダ ジャンルを問わず、オーケストラの華麗なサウンドを聴きたい人に最適な演奏会。老若男女、皆さん楽しめますよ。

榊原 東京ニューシティ管は「こどもフェスタ」に登場です。“歌のおねえさん”も出演するファミリーコンサートですが、「フィンランディア」を合唱付きでやるという、なかなか貴重な演奏もあります。

16代目うたのおねえさん神崎ゆう子と一緒に歌おう!

16代目うたのおねえさん神崎ゆう子と一緒に歌おう!

坂入 「パイレーツ・オブ・カリビアン」も演奏しますね。この曲は、ひとつの交響曲みたいによく出来ていて、子どもが聴いても楽しめるし、演奏者ものめり込める曲なんですよ。

オヤマダ 「こどもフェスタ」コンサートは、大人が聴きに行っても楽しいと思います。

音楽大学の公演もお楽しみに

坂入 サマーミューザは、音楽大学の演奏も聴けるのが面白いですよね。

榊原 昨年バレエ・コースを創設した洗足学園音楽大学は、バレエ公演をやります。学生だけでは人数が足りないので、昨年は有名バレエ団のダンサーが大勢出演したんですよ。演奏は洗足学園音楽大学の卒業生のオーケストラで、指揮は秋山和慶さん。昨年は完売した、人気公演です。

(C)青柳聡

(C)青柳聡

坂入 昭和音楽大学の公演は、メインはショスタコーヴィチで、彼がこよなく愛したロッシーニ作品が前プロという、いいプログラムですね。

(C)青柳聡

(C)青柳聡

オヤマダ これぞクラシックの演奏会、という王道のプログラムですよね。学生オーケストラならではの熱い演奏を期待したいです。

榊原 小学生から大学生までのメンバーによるかわさきジュニアオーケストラは、今年は気合いの入った曲がならんでいて、同世代のお子さんが聴いたらとても刺激になると思いますよ。
そのほか、新百合ヶ丘で開催する「出張サマーミューザ@しんゆり!」では、今年も協奏曲と交響曲の名曲をお届けします。皆さんならではの「最響の夏」をお楽しみください!

座談会2

なごやかな雰囲気で楽しいお話をたくさんいただいたお三方、ありがとうございました!

 

 

(2016年7月1日発行 友の会会報誌「スパイラル」より再掲)

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